未来のネットワークをつくる 神戸電子の「プログラミング女子」 後編

2015.8.12

CATEGORIES:国内 ,学校・教育

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前回に引き続き、神戸電子の「プログラミング女子」、小湯原沙紀さんとの対談の様子をお届けします。後編では、小湯原さんが昨年度末にIT分野の優秀作品発表会「Digital Works」で制作した、テキスト共有システムについて、また就職などについて話した内容を紹介します。

――:演習で「Raspberry Pi」を使用した、テキスト共有システムを制作したと聞いています。どんなものか簡単に説明してもらえますか?

小湯原沙紀さん(以下、小湯原):「Raspberry Pi」は、手のひらサイズのコンピューターで、ディスプレイやキーボードは外付けになります。小さいのによく働いてくれる、なかなかに可愛いやつです。

――:なぜそれを選びましたか?

小湯原:安いからです(笑)。価格が安価で、手軽にサーバーとして使えるので。ちゃんとネットワークにも繋がります。演習では、「Raspberry Pi」を使って、文章をウェブ上で共有するシステムをつくりました。巷で有名なものでは「evernote」なんかが近いかもしれませんね。

――:文章共有システム、どうしてそれをつくろうと思ったのですか?

小湯原:何をつくろうか仲間内で話しているときに、文章の共有システムが欲しい、という話が出ました。テキストエディタを元にすれば便利なものになるではないかと。みんなでそう話がまとまり、制作することが決まりました。

――:なるほど。ひとりではなく、チームで制作したんですね。

児湯原:そうですね。「Digital Works」のためのチームです。女子5人、男子2人の計7人で制作しました。クラスの男女比が約10:1なので、クラスの女子がかなり集まったチームになりました(笑)。

――:まさに「プログラミング女子」が集まったチームだったんですね。制作するなかでの苦労話はありますか?

小湯原:グラフィックの話になるんですけど、JavaのGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)には「Swing」と「JavaFX」、ふたつのアプリケーションがあります。今回「JavaFX」の方をはじめて使ったんですね。結構勝手が違って、製作中はみんなで格闘しました。「JavaFX」はXMLの言語を書けるようになっているんです。XMLはインターネット上でさまざまなデータを扱う場合に利点を発揮する言語なんですけど、仕様をXMLにひとつひとつ変更しないといけない部分があって。そのあたりは苦労しました。

――:話の中身が完全にプログラム女子です。(笑)製作期間はどれくらいかかりましたか?

小湯原:だいたい3〜4ヶ月でしょうか。何をつくるかは早くに決まっていたんですが、メンバー各々の国家試験のタイミングなどが重なって、着手が遅かったんです……(笑)。

――:なるほど。「Digital Works」での結果はいかがでしたか。

小湯原:えーっと……受賞はできませんでした(笑)。

――:えー! そうだった!?(笑)

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――:さて話を変えて、就職先のこともお聞きしましょう。小湯原さんの就職先について教えていただけますか。

小湯原:はい。エスアイエス・テクノサービス株式会社という会社です。就職活動をはじめたのは確か今年の2月くらいになってからで、就職がきまったのは5月の頭です。

――:実際、合格をもらってどういった気持ちでしたか。

小湯原:最初は信じられませんでしたね。それまで、ずっと面接練習をしてこなくて。2月の終わり頃にキャリアセンターの先生に相談しました。3月の間はずっと、Web系の会社にインターンをしていたんです。そこではPHPを勉強していて。なので、本格的に動きはじめたのは4月になってからという……。

――:インターン先に就職しようとは思わなかった? やっぱりネットワーク?

小湯原:やっぱりネットワークの方が楽しいかな、と。

――:なるほど。将来なにがしたいか、という話はすでにお聞きしました。ネットワークで評価されるエンジニアになりたいと。そこで、インターネットの可能性、ネットワークのひとつですけれども、なにか展望や予測はありますか? インターネットっていうのは今後こうなるんじゃないか、もしくはこうしていきたい……とか。

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小湯原:ずっと思っていることがひとつあって。インターネットは「物理的な距離が生む不利」を、どんどんなくしてくれるんじゃないかと考えています。私の地元はかなりの田舎なので、ものすごく不便で、閉ざされた環境でした。それが中学のときにパソコンを買ってもらって、インターネットに繋いだことで、世界がすごく広がった感じがしまして。

――:鳥取の北部から進学してきたんですよね。

小湯原:はい。実家は、電車や汽車の時刻を調べてからじゃないとまともに動けないぐらいの田舎なんですけど(笑)。今までは人が集約する場所に、サービスや情報の集積が限定されていました。けどインターネットの広がりで、都市から遠くに住んでいる人が受け取れきれなかった情報を、今後はもっと受け取れるようになるんではないかと考えています。……とはいえ、まだまだ集積地の情報密度は高いんですが。

――:その人から刺激を受けるというよりは、人が多いと市場が大きいので、いろんなサービスが早く来ますからね。神戸市も、人口が多いので。人が多いと、それによって生まれる出会いが多い……とかね。神戸に進学、神戸電子に来た時の印象はいかがですか?

小湯原:そうですね。「変な人が多いな」って思ってました(笑)。

――:(笑)。それはいい意味で? それとも、おや? っていう。どっちでしょう。

小湯原:いい意味で変わり者が多いなと。高校の時は、私もわりと変な人扱いされてたんですけど。神戸電子に来たら変人扱いされないので、調子に乗ってどんどん変な方向にいってる気がします(笑)。

――:特別な技能習得を志としているからでしょうか(笑)。その人たちと集まることで得られたものはありますか。

小湯原:やっぱり、わからないことを聞ける人が近くにいるっていうのは大きいと思います。私の地元ではパソコンに詳しい人が全然いなかったので、全部自分でやっていくしかなくて。それが神戸電子だと、みんなパソコンが好きで学校に来ているので、ちょっとしたことだったら周囲の人に聞けばいい。

――:問題を共有できる存在は大切ですね。さきほど、女子はクラスの1/10と仰ってましたが、プログラミングとなると、男子社会っていうイメージが世の中にあるかもしれないんだけど。そういうことは感じてないですか?

小湯原:やはり少し、女子はプログラミングが苦手な人が多いかな、って感じはしますね。ただ、できる人は女子でもすごくできるので。そのあたりはあんまり関係ないかなと思います。プログラミングはやっぱり敷居が高いんですけど、ちゃんとやればやるほど、自分で「ここもこうしたらできるんじゃないか?」と思いつきやすくなるし、時間がかかっても、どこかで絶対にひらめくことがあります。なので、難しいと思っても諦めずに……。あまり苦行だと思わないでやるのがいいと思いますね。

――:なるほど。今のいいですね。ひらめくことがある、っていい言葉ですね。敷居などは気にせず、まずは「好き」の気持ちを大切にしてほしいですね。小湯原さん、今日は長い時間のお話、どうもありがとうございました!

小湯原:ありがとうございました。

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未来のネットワークをつくる 神戸電子の「プログラミング女子」 前編

2015.7.31

CATEGORIES:国内 ,学校・教育

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「プログラミング女子」という言葉をご存じですか? 近年、コンピュータソフトのプログラミングを学ぶ女性がどんどん増えています。

そして、プログラミングを学ぶ女性のための学びの場も、どんどん生まれています。たとえばフィンランドから発足した「レイルズガールズ」は、女性を対象にプログラミングを教える無料のワークショップ。フィンランドの社会運動の一環として生まれ、インターネットを通じて世界中に広がり、これまでに世界各国約230もの都市で開催されてきました。なんと累計で1万人以上の女性が、このワークショップでプログラミングを学んだそうです。
ほかにも、「プログラミングは女の子の武器になる」をコンセプトに、女子中学生・高校生を対象としたITワークショップ「code girls」というものもあります。こちらはGoogleやIBM、Microsoft、国内最大の料理レシピサイトcookpadなどがサポートしており、世界的な注目を集めていることがわかります。

そこで今回、神戸電子で学ぶ「プログラミング女子」と、少し話をしてみました。彼女は、情報処理技術の上級試験である「ネットワークスペシャリスト」の資格を在学中に取得したツワモノです。
 
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――:それでは、自己紹介をお願いします。
 
小湯原沙紀さん(以下、小湯原):ITスペシャリスト学科3年生の小湯原です。出身は鳥取県の県立青谷高校です。
 
――:難易度が高い「ネットワークスペシャリスト」ですが、受験してみてどんなことを感じましたか?
 
小湯原:そうですね。「ネットワークスペシャリスト」はシステムエンジニアのなかでもネットワークの担当設計者や、管理者をターゲットにしているので、より専門的な知識が必要となり、難易度は高かったです(笑)。1年生の時に基本情報技術者を、2年生の春に応用情報技術者の資格を取得し、2年生の秋に満を持して挑戦しました。合格できて本当にうれしいです。
 
――:小湯原さんが受験された時の試験では、兵庫県下の専門学校生で合格されたのは小湯原さんたったひとりだったとか。企業のエンジニアにとっても難度の高い資格を在学中に取得、素晴らしいですね。
 
小湯原:ありがとうございます。コツコツと勉強してきた甲斐がありました(笑)。
 
――:話を変えて、小湯原さんが、神戸電子を選んだ理由を教えてください。
 
小湯原:高校に入った時から、パソコンに関わる仕事がしたいと思っていたんです。高校卒業後の進学先を探していた時に、折よく神戸電子の学校説明会が高校であり、そこで興味を持ちました。

――:なるほど。高校の時はなにか、神戸電子で学ぶきっかけになるようなことはされていましたか?

小湯原:独学でC言語を勉強してました。今見ればものすごく簡単なつくりだったんですけど、自分の構築した通りにモノが動くっていうのに感動したのを覚えています。

――:小湯原さんの世代でもC言語なんですね。とっつきやすい HTML・CSSやjavascript、PHPなどのWeb言語あたりからかと思っていました。
 
小湯原:そうですね。HTMLも少し触っていたんですが、C言語を選んだのは学校の図書館に参考になる本が置いてあったからですね。
 
――:便利なアプリに囲まれている今、自分でプログラムをつくって走らせてやろう! って思う人は少ないと思っていました。小湯原さんがプログラミングを学ぶにあたり、何がきっかけとなりました?

小湯原:もともとモノをつくることが好きだったんですね。しいてきっかけをあげるとするなら、中学生の頃にパソコンを買ってもらったことでしょうか。一目見た時から、この箱のなかで動くモノをつくりたいと思ったんです。

――:高校で説明会があったということですが、そこで何か心を動かすようなことはありましたか?

小湯原:高校生を対象にパズルゲームをつくるワークショップをされていたので、そこに参加しました。

――:それをつくってみて、やっぱり面白かった?

小湯原:はい。当時の自分では、ひとりでゲームをつくることができなかったので、すごくよい経験になりました。

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――:高校でC言語の本を見つけ独学し、実際にプログラミングも行った。神戸電子のITスペシャリスト学科に入学してきたということは、高校の経験をもとにIT技術を仕事にしようと決めて入ってきた訳ですよね。入学時に、なにか具体的なイメージはありましたか?

小湯原:最初はシステムエンジニアを目指していたんですが、今はネットワークの方に興味があります。入学するまではコンピューター関係の仕事って、システムエンジニアの事だとばかり思っていたんです。要はコンピューター関係の仕事にどんなものがあるか、わかっていなかったんですね。入学後、プログラミングの勉強や、友人たちと話すうちに、自分がITに貢献できる仕事は何か、ちょっとしたビジョンを持てるようになりました。

――:ビジョン!いいですね。ビジョンって何ですかと聞いた際、なかなか説明できる人は少ないんですね。英語で書くと「VISION」。視界や映像という意味です。自分が向かう先の目標を達成した姿を先取りして映像化したのがビジョンだと思います。小湯原さんはどのようなビジョンを持っていますか?

小湯原:ネットワークに携わることを考えていますね。ただ触っているだけではなく、技術者としてきちんと働ける存在でいたいです。

――:ネットワーク技術者として、会社の同僚から「ネットワークなら小湯原だ」、クライアントから「御社の小湯原さんにお願いしたい」と言われるような?

小湯原:はい。そうなりたいと思っています。

――:なるほど。取得した資格にもその意志がよく現れていますね。あと、前半最後の項目として、小湯原さんから、専攻しているITスペシャリスト学科について説明してもらえますか。

小湯原:IT業界のプロとして働くことを目標にすえた学科です。プログラミングの知識がない初心者でも大丈夫なように、基礎から学べるカリキュラムが組まれていると思いますね。実際に私も、本を読んでいるだけでは理解できないことがあったんですけど、そのあたりを先生に教えていただけるので、より深く理解できるようになりました。年間を通して、授業ではいろんな言語を学ぶことができます。3年生になってからは、言語だけじゃなく、システムの設計や、プロジェクトの管理方法も学びます。仕様が決められたものをつくることもできるし、世の中の課題、自分が実現したいことの仕様を1からつくって実装したり、プログラムをつかって実現したりすることもできる。実践的な部分まで、きっちり学びの時間が設けられています。

――:小湯原さんは、仕様が決められたものをプログラムとして実装することと、それとも自分が実現したいことを形にしていくこと、どちらが得意ですか?

小湯原:どちらかというと、決められた仕様に添ってのほうですね。

――:そのかわり、どんな仕様でもどんとこいと(笑)。ネットワークにも強いので、ネットワークが織り込まれたシステム、ソフトウェアもどんと来いと!

小湯原:そうですね! できうる限り、努力します(笑)

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さて、今回の学生対談はここまで。全体で2回にわたって配信します。
次回は、「Digital Works」での制作物や、就職先、将来の展望について語っていただきます。

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「神戸市公安9課」前半 市とアニメの公民連携PRプロジェクト

2015.6.26

CATEGORIES:国内 ,神戸

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©士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

「神戸市公安9課」が始動しました。

「公安9課」とは、世界的な人気アニメ「攻殻機動隊」の主人公たちが所属する架空の情報機関のことです。その「攻殻機動隊」シリーズと神戸市が、公民連携による面白い広報プロジェクトをはじめました。

「攻殻機動隊」の原作者である士郎正宗氏は兵庫県出身で、作品自体も近未来の神戸を想起させた架空都市「ニューポートシティ」が舞台となっています。本ページのトップ画像は、このプロジェクトを象徴するものとして描き下ろされたもので、神戸のランドマークであるポートタワーと作品の主人公が描かれています。

プロジェクトの目的は、「聖地巡礼」による観光振興もありますが、「IT産業の振興」や「オープンデータ・ビッグデータの利活用」を推進するIT先進都市神戸のプロモーションにも力点が置かれています。この点、理事を務める「地域ICT推進協議会」を通じ関わっています。20日には「攻殻機動隊 新劇場版」も公開されましたので、注目度さらに高まると思われます。詳しくは専用サイトで。

神戸市公安9課

さて今回、「神戸市公安9課」プロジェクトメンバーの方々(市職員)にお話をうかがう機会がありました。公民連携を担当されている河端室長と、政策調査を担当されている瀬合課長、そして市のIT推進を担当されている松崎課長、多名部課長です。

神戸市と攻殻機動隊の広報連携、今後の展望、加えて、攻殻機動隊のなかに予見されている、IT技術が市民にもたらす新しい生活環境、今後神戸が推進していくIT関連施策にも話が及びました。前後編にわけてその模様をお伝えします。

――:「神戸市公安9課」の広報について、本プロジェクトは公民連携形式ということですが、具体的にはどのような団体がどのように関わっているのか教えてください。

河端室長(以下、河端):今回の計画は、「公民連携PRプロジェクト」として、アニメ製作委員会と行政の関係者が一緒になって進めています。市役所のメンバーは、企画調整局情報化推進部やデザイン都市推進部、市長室広報課、産業振興局経済企画課や観光コンベンション課などです。民間の事業者のメンバーは、「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会の方々、それから、福岡校長も在籍されている「地域 ICT推進協議会」、それから「神戸フィルムオフィス」、「神戸国際観光コンベンション協会」のみなさまになります。

――:多方面の方々が関わったプロジェクト体制ですね。

河端:そうですね。民間では、IT事業者以外に、製作委員会の内部メンバーとして、映画の「東宝」、アニメプロダクションの「プロダクションIG」、大手広告代理店の「電通」、アニメ・特撮の「バンダイビジュアル」といった企業の方々もおられます。ありがたいことに、いろいろな方が関わって盛り上げていただいているところです。

――:市と企業群を合わせると、かなりの人数ですね。まさに一大プロジェクト。観光施策としては、攻殻機動隊とのコラボで現在どんな計画が動いていますか?

河端:攻殻機動隊は、作品中に神戸を想起させるようなシーンが多々登場することもあり、「このシーンは神戸のここなんじゃないか」と、実際の場所と比較できるような形で、サイトのなかで紹介していこうと思っています。実際の神戸の街で、色々な登場場面となっている場所を訪れていただけるよう、聖地巡礼効果を狙っていきたいと思っています。是非特設サイトにご注目いただければと思います。

――:今回の連携企画にあたり、神戸市民をはじめとする受け手の反応はいかがでしょう。

瀬合課長(以下、瀬合):Twitterを分析しますと「神戸市がようやく本気を出しはじめた」「これを待っていた!」など、関心の高さがうかがえる反応をいただいています。サイトに関しても、攻殻機動隊の世界観と合っていて、今後の展開に期待するという声が95%以上。批判的な声はほぼ見当たらないですね。

――:素晴らしいです!攻殻機動隊以外にも神戸の街はアニメやマンガの舞台として描かれることが多いように思います。観光施策として、今後もアニメやマンガに対しどのような期待をされておられるかお教えください。

河端:神戸には「神戸フィルムオフィス」という、映画のロケ支援を行っている組織があります。映画の撮影にも市内のいろんな場所が多く使われますが、アニメとの本格的なコラボレーションは今回がはじめてではないかと思います。今回はチャレンジの意味合いが強かったですね。

瀬合:このプロジェクトは、神戸市役所にとっては大きな挑戦なんですね。これまで、神戸市はサブカルチャーに対しては硬いところがあり、アニメやマンガを必ずしも大きくクローズアップしてきませんでした。ただ、久元市長が就任され、結構、組織全体としてチャレンジングな動きが出始めているなと思います。攻殻機動隊以外にも、色々な作品が神戸を舞台にしていますし、これからもしていくと思いますが、まず神戸市公安9課をしっかりとカタチにして行き、アニメやマンガカルチャーが街にもたらす効果をじっくりと見定めていくことが重要なんじゃないかなと思います。

――:なるほど。マンガやアニメそして、実写映画の舞台としても結構なシェアが有りますし、今後聖地巡礼としても多面的に盛り上がっていくと嬉しいですね。話は戻り、攻殻機動隊との連携で、今後の発展があれば教えていただけますか?

河端: 20日から新劇場版公開になりますので、まずはそこに合わせてPRを強化していきます。同作品に注目されている方に、神戸市やその施策にも注目していただけるよう持っていきたいと思います。製作委員会とのコラボは秋ぐらいまで続く予定です。11月には、世界最大級のデジタルコンテンツのカンファレンス「SIGGRAPH ASIA 2015」がここ神戸で開催されます。そこでも「攻殻機動隊 新劇場版」と連携し神戸の施策をPRしていきたいと考えています。それと、これはちょっとしたことですが、神戸新聞にも書き下ろしイラストを折り込み広告として載せていただきましたし、前作となる「攻殻機動隊ARISE」では、首都の設定が福岡市だったということもあり、「神戸と福岡の未来」と題し、双方の市長のメッセージを載せた企画記事も展開しました。

――:「都市の未来」、多分にIT領域との関係性を想起させるタイトルが出ましたので、次はそちらの方に話題を振りたく思います。神戸市公安9課は、アニメと街の観光連携にとどまらず、街のIT振興にも大きく関わっていますよね。

松崎課長(以下、松崎):そうですね。神戸市公安9課関連の話であれば、去年の冬から「オープンデータの利活用」に関するプロジェクトが動きはじめました。市が持つ膨大な情報を活用し、市民生活のクオリティを上げることができないか? という想いをカタチにするべきだと考えています。世界の先進的な都市で取り組みが始まっているオープンデータについて、神戸市も取り組み始めました。今までは情報というものを物理的な形で繋いでいくのみでしたが、もっとネットワークを通じて人々の知恵や知識、こちらが知り得ない情報を繋ぎながら、いかに新たなものを生み出していくか。こういったことに取り組むのが、私の担当しているICT施策です。

――:攻殻機動隊が仮想世界として世界に先駆けて提示したネット上「神戸市公安9課」人気もさることながら、そこに掛け合わせた現実世界でのICT活用にも注目すべきですね。攻殻ファンならば常識ですが、作中には「電脳」と呼ばれるネットワーク世界が物語の中心に有ります。現在のインターネットでは、PCやスマートフォンなど、なにかしらの電子デバイスが必要になりますが、「電脳」は脳自体にマイクロチップを挿入することで、特別な装置がなくとも直接脳からネットワークに接続することができるというもの。現時点では、さすがにこの電脳世界とまではいきませんが、スマートフォンやウェアラブルデバイスが普及し、私たちの生活は、現実世界と仮想世界(ネット)を、いつでも、どこでも、行き来できるようになってきました。かつてはインターネットを利用するのにも、甲高いダイヤルアップ接続音を聞きながら、ポータルサイトにアクセスしなければなりませんでしたよね。ポータルとは、港(port)から派生した言葉。つまり、文字通り門や入口を“通過”しなければ、ネットの「向こう側」にはいけなかった。今では高速化したネットワークと多様化したデバイスを使いこなし、人は幅広い情報を瞬時に得ることができる。ゆえに情報は秘匿するのではなく、公表して活用することでその価値が上がってくると。

松崎:オープンデータの利活用は神戸市として重要な取り組みであることには間違いないのですが、それだけではなく、リアルの世界との繋がりをつくっていかなければバーチャルな世界は成り立ちません。バーチャルな世界を利用してリアルな世界の質を上げていく。そのコネクションはなにかというと、ビジュアル展開を通じて理解していただくアプローチをとることです。

――:行政のICT活用として、パッシブ型だったのが、未来予測も含めてアクティブのほうに歩を進めるということですよね。市民から見てわかりやすい具体事例或いはプランは有りますか?

松崎:はい。たとえば被災地の写真や映像をオープンにして、防災・共済に使ってもらうとか、映画のロケ地をマップにして、アプリとして落とせるようなアイデアをいただいています。私たちがまもなくリリースしようとしているのは、地図情報をベースにした、市民公開型のオープンデータサイト。それでなにができるかというと、公共施設の場所がどこにあるかがマッピングでわかる。それを利用して、避難所がどこにあって、地域での避難経路を考えるといった活用ができます。防災だけではなく、その地図情報を使って観光にも展開できる。それらが官だけではなく、市民レベルでプロットすることができ、行政のデータを使って個人のルートマップを地図上でつくることも可能です。

――:行政しか持ち得なかった情報を公開する。市民が自分ごととして情報を活用できるようになりそうですね。市役所の推進体制はどのようになっていますか?

多名部課長: 3つ部局が横断的に関わっていると思っていただいていいと思います。ひとつは市や市役所のIT化を推進する部署です。次に市域の観光を活性化する部署。それから、これからの神戸の街をつくってくれる若手の起業家、スタートアップの人々を育てることを目的とした経済企画部門。これら3つの部署が主に関わっています。それらを統合する公民大学連携推進室。そして広報課がPRという観点で全体を俯瞰しながら見ています。そういう形を理解していただければ結構です。

――:実によい体制ですね。ビジュアル面でのプロモーションから、広義の意味での街づくりに至るまで、攻殻機動隊を題材として、幅広い取り組みがなされている。画期的な体制で推進される本プロジェクトですが、最終的なゴールはなんでしょう?

河端:目的はふたつあります。ひとつは観光振興。もうひとつはIT関連産業の振興や、オープンデータの利活用によって、 街のITを推進させること。この2軸を神戸市公安9課として推進し、PRしていきたいと思っています。

松崎:神戸市は観光にとても力を入れていますが、近未来の神戸を描いている作品を通じ、神戸を訪れた人に、そのイメージを合わせもって体感できるような仕掛けをつくっていきたいですね。あと、神戸市はこれから特にITに力を入れていくぞ! という強いメッセージを打ち出したい。将来、ITはものづくりとしっかり繋がっていくと思っていまして。「IOT」(Internet of Things)と呼ばれる広義な意味でのものづくりが、デザイン、クリエイティブな思考そのものと深く繋がっていけばいいなと。神戸市はもともと、「デザイン都市」を掲げていますから、今まで神戸市が進めてきた政策の延長にITの要素が加わっていくと、とても魅力的なクリエイティブシティが生まれゆくのではないかと思っています。

――:ITを活用した、クリエイティブな街のデザイン、そして実現。かなり期待できるのではないでしょうか。一市民としても、微力ながらデザイン都市に関わらせていただいている身としても、楽しみです。

次回は、神戸市のIT施策について、より掘り下げた対談の様子を紹介します。
 
 

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