砂漠に現れる7日間だけの都市 バーニングマンを再考する

2014.12.22

CATEGORIES:海外

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本夏、2年ぶりにバーニングマンへ。 今回はpixiv代表の片桐さんをはじめ神戸と東京のキーマンと呼べる皆さんとの8人で参加し、中々に濃い時間を過ごしました。

さて、「バーニングマンって何?」という方のために簡単に解説をしますが、これがとても難題です。誤解を招くことを覚悟で言うと、アメリカの西部、ネバダ州の荒涼とした砂漠に一週間だけの街を築き、7万人に迫る人々が資本主義・貨幣経済の価値から脱して生活を共にし、最終日には街の象徴となるアート作品を燃やして無に返す、跡形もなく消えてしまうアート・イベント。

正直、何を言っているのかサッパリですよね。でも、実際に足を運んで、その目で確かめた人も「バーニングマンが何であるのか」、うまく咀嚼できる人はそういないはずです。それほどバーニングマンは特有の体験であり、もうバーニングマンとしか言いようがない……。

会場となるネバダ州のブラックロック砂漠は、電波も通じず、電気も水道もガスもない、アルカリ性の砂塵が舞う荒れ地です。何にもない場所に期間限定の街がポッと現れ、そこへ世界各国からアーティストや経営者、文化人にダンサー……多種多様な人々がやってくるわけです。Facebookの創業メンバも参加し、amazonの会長はここで結婚式を上げ、電気自動車のTESLAモータースを成功させたイーロンマスクもここへの道中に太陽光発電を意識したとのこと。世界を席巻するサービスやプロダクトを創っている人々が集まっているんですね。このイベントの主催者側が用意してくれるのは、自然環境保護のための仮設トイレと、食料の鮮度を保つための氷のみ。それ以外のすべてのもの、生命を維持するための水や食料、昼夜の寒暖差に耐える衣類や燃料、激しい砂嵐から身を守る住居などを、自らの責任で用意しなければなりません。本当のサバイバルです。

それでも、ここに集まる人たちの多くは、自分のパフォーマンスやアート作品のために、大量の音響機材や巨大な火器等をトラックに積み込んでやってくる。もちろん、資材やそれを運ぶ交通費は自分もちで、一週間にわたり、信じられないほどの手間をかけて非日常的な世界をつくるのです。

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誰かが巨大なインスタレーション作品を創作しているかと思えば、その隣では素っ裸のダンサーが踊っている。ハンモックで寝そべりながら真剣な表情でディベートが行われる一方、レーザーや電飾の光を暗闇に照らしながら夜通しで大騒ぎをしている。目に映るすべてが普段の生活とは乖離していて、思わず目がクラクラするほどの異世界が、そこにはあります。

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バーニングマンの大きな特徴のひとつに、「お金を使うことができない」というルールがあります。ここでは1万円もただの紙切れ。何日目だったか、同行者のひとりがトイレに行く途中、「これで拭きな」と10ドル札を渡されたのだそう。ここではお金があっても、何ひとつ手に入れることができないのです。

その代わりに、バーニングマンの世界は、何をするにも「ギブアンドギブ」の精神で成り立っています。僕らは味噌汁を振る舞う知人のキャンプで過ごしたのですが、お金は一切いただきません。普段は高価なチケットを買わなければ楽しめないアートや音楽も無料で楽しめます。要するに、お金に頼らず、互いが与え合うなかで社会生活を成り立たせよう、という試みなのです。贈与経済の社会実験場といえるかもしれません。

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バーニングマンの根底には、「NO SPECTATOR(傍観者になるな)」という合い言葉があります。自分以外のすべての人々を楽しませるために行動しろ。世界をまたにかけるミュージシャンも、ニューヨークの会社員も、神戸の学校長も関係なく、みんなフラットな立場のエンターテイナーとなって、自分以外の者を楽しませる。利益も、地位も、名声も、外の世界に投げ捨てて、どうやったら残りの6万9999人を楽しませることができるのか。それだけをみんな考えているのです。

そんなバーニングマンの終わりは、唐突に訪れます。イベントの由来ともなっている巨大な木製の人形「MAN」を焼くことで終焉を迎えます。7万人の参加者が見守るなか、MANに火が着けられ、大きな炎をあげて散ってゆく光景は、ひとつの世界の終わりを感じさせるほどです。豪快に、荘厳に、そして、あっけらかんと燃えていく。MANが灰と化し、東の空が明るんでくるころ、「また来年」と言って人々は現実の世界へと帰ってゆきます。

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そして、ひとつのゴミも残さず人々が消え去り、荒涼としたいつもの砂漠の風景に戻るのですが、その変様ぶりは、まるで幻を見ていたかのよう。しかし、参加者は心の傷を負ったかのように鮮烈な感情を刻み込む、それがバーニングマンです。

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うーん、僕の説明では、これっぽっちもバーニングマンのリアルを表現できている気がしません(笑)。今年の参加者で、報告会をやりましたのでその様子もまたお知らせします。そこに参加された在校生の保護者の方が、次回参加を決意しておられました。まず必要なのは「自分がバーニングマンを楽しませてやろう」という心意気。人生を変える7日間というものが有るとすれば正にの集約点にあなたも参加してみませんか。傍観ではなく。

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